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執筆者の写真王様企画

三人だけの葬儀

先日、叔父が亡くなった。


祖母の家を訪問した際に、お互い無言で会釈した程度の記憶しかなく、これといった接点はどれだけ思い起こしてもゼロである。


本人のいないところで“おじさん”と口にしたことはあるが、名称を口にしたかっただけに過ぎない。それくらい、本当に接点がない。



訃報の連絡は、母から家族のグループLINEで周知された。葬儀は一日で全て済ませる、日にちは三日後。

私含めて弟妹誰にも接点がないのは母も織り込み済みだったので、本当に無理してこなくていいと添えられていた。


今年に入ってから叔父の様子があまりよくないことは、母から何度か報告をもらっていた。あまり明るい話ではないことだけ理解していた。

ただ、まさか命が消えてしまうとは考えておらず虚をつかれた。そんな予兆を感じる話はなかったから。母も予兆を隠して話していたわけではないので、似たような心持ちだったのかと思う。



母と叔父は姉弟の間柄だが、対面の度に変な空気を感じていたし、互いに距離をとっているんだろうと子ども心ながらに勝手に考えていた。そのまま十数年私の中で感じていたものは変わることがなく、片方の命が最期を迎えた。


もちろん当人のどちらでもないので、第三者の見解に過ぎないことはわかっている。

ただ私にとって母は、誰が何と言おうと尊敬する親であり接点しかない存在なわけで、対極の叔父に対する気持ちをどう整理つければいいやらで非常に困った。




結果、私は葬儀に出席した。

今日のことである。

式場に揃った参列者は、祖母と母と私だけだった。


祖父が亡くなった際もこの式場だった。あの時は弟妹みな参列していたこともあり、寂しい見送りになるなとか余計なことを思う。


式場の方のお辞儀があまりに綺麗だった。

本当にどうでもいいところに思考がいく。


酷暑の下だったので、上着を羽織り直す。

黒のネクタイを締めあげる。

しばらく着ていない喪服。

サイズ感的には喪服に着られている気がする。





式が始まる。





不思議なもので、故人の顔写真を前にお経が耳に入ってくると、お盆休みとか、物価高騰とか、仕事ため込んじゃったとか、やっと汗引いてきたとか、台風の進路とか、来月スケジュールみちみちとか、雑念が全部どこかへ飛んでいった。


気づくと、叔父の死の瞬間を想像して同情の余地を探っていた。この人と自分に接点などないのに。


いつもそう、誰のお葬式でも聞かされた情報だけで死の瞬間を想像する。故人が望んで自死したケースの葬式に立ち会ったこともある。

望む死であれ望まぬ死であれ、その絶える瞬間だけ切り取れば同じ苦しみなのではないかと思うと、平等な死に寄り添えるのではないかなんて野暮なことを考えたりする。


焼香をあげて手を合わせる。

目を閉じながら、接点のない叔父に語りかける。


お経が終わる。

出棺の準備をする。


棺に手を添えるよう促す葬儀屋。添える祖母と母。一歩棺から距離をとる私。


涙を流す祖母は、感謝と謝罪の言葉を口にしている。母にはやはり涙の気配はなく、どんな気持ちで手を添えているのだろうと思ったりする。

ただ聞き取れなかったが、何かボソッと母が言葉を放ったのは意外だった。



このとき初めて、故人含めた三人が一家族であった事実を受け止めた。私にとって母は母でしかないが、故人にとっては姉で。私にとっての祖母は、故人にとっての母であるのだと。

多くは語られなかったこの一家の根底が垣間見えた気がして、目頭が熱くなる。故人との接点はないのにまったく自分は都合がいい奴だと心では薄ら笑いもしている。でも両目には涙がたまっている。


母は変わらず涙なしだ。



祖父亡き今、独り身だった叔父は、生を授かる母と姉の二人に手を添えられ出棺するのだと、なんだかよくわからない感情と現実を目の前で眺めている。


黒い霊柩車の後をつけて火葬場へと車を走らせる。


火葬場という建築物は、床から壁から石のタイルで装飾されている。なんてどうでもいいところにまた目が向く。

他の葬儀屋は白い霊柩車もあるんだなとか、どうでもいい発見がある。


棺の上に花束が添えられ、火葬炉に叔父が吸い込まれていく。二時間弱で骨になるとのこと。


葬儀場へと車で戻る。


ついさっきまで、そこに在った亡き者が、無くなった。棺のあった棚が随分と殺風景になった。花と棺が無くなって、写真と位牌だけになった。


火葬場を境に、死に対する悲しみと驚きがスッと胸の内に吸収されていった。


人との最期の別れに立ち会う機会は限られている。毎日起きている人の死も、自分との相関を超えない限り身近にはならない。


何をどう書いてよいかわからないのだが、忘れたくない感情が入り乱れた一日だった。

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