きっと結果は昨日から決まっていたのだろうと思う。
夜遅くまで行われた稽古の帰り道、昼飯のゴミをコンビニのゴミ箱に捨てるかどうかで迷った。ゴミ箱の前で自分に問いかける。
「明日は宝塚記念ですよ」
徳を、積む、のだ、、、
心の奥底から誰かの声が聞こえた。
私は、それが悪魔の声であることを知っている。なぜ悪魔なのか、言うまでもない。
レースの前だけにそんなみみっちい台詞を吐いてくるのは悪魔の仕業だからだ。
神は常に問いかけてくれているというのに、常は他人事となって忘れてしまう。
神が毎日差し伸べている声には耳もくれず、大きなレースの度に好き勝手囁く悪魔の声だけを身体に浸透させる。
はっきり言って、恒常的に外部のゴミ箱を利用するだとか家庭ゴミを持ち込むなどといったような御法度モラルを私はおかさない。
しかし今日の疲労度はたまらないものがある。自ずと悪魔に寄りかかる自分の弱さが露呈した結果、そのみみっちい声が明確に聞こえる。
私は悪魔と契約を交わした。
契約を交わして自宅でゴミを分別して捨てた。
悪魔との契約は恐ろしい。
「これで明日は一攫千金だ」
出所不明の自信がみなぎる。
「まあなんと小さい男でしょう」
俯瞰で見れば間違いなくこの意見だ。
そう私は小さい男だ。
等身大の小さい男だ。
その男が悪魔との契約で、明日の宝塚記念で、皆を見返す。見返してやるのだ。
なぜなら私は昼飯のゴミを自宅で処分したから。
ふははははははははは
ふははははははははは
そして朝、私は気付く。
うわ、嘘だろ。
身体が...身体が...重たい。
そうだ悪魔との契約を交わしたのだと。
それにしてもなんという重さだ。
月並みな表現にはなってしまうが、昨日の稽古での疲労も加味されて、身体が鉛のように重たい。重たすぎる。これが悪魔が与えた試練なのだ。
しかしこれに耐えさえすれば、宝塚記念記念の的中が待っている。さあ、今日の稽古に向かうのだ。
基礎稽古、シーン稽古、通し稽古
全てを持てる力で呼応して、私は宝塚記念の勝者となるのだ。
昼。
迷った。ネットで馬券を買うのか、紙馬券を買うのか。
午前中の稽古を振り返ってみる。
どうも調子が今ひとつだった。思うような気持ちが乗っていない。というより身体が起ききっていない。朝を迎えられていないかのように。
なんとしてでも身体を目覚めさせなければならない。そう、紙馬券を買いに“行く”行為によって完全体の己を引き出さねばならないと。
日本ダービー前日と同じく、今日の稽古場からなら場外馬券場までの移動が可能。
これは行くしかない。
だって、行くことで徳を積むことになるのだから。
稽古終わり。
すぐさまに結果を確認する。
上半期の競馬の集大成を。
悪魔と契約した今日の代償を。
ここで、勝利の喜びで昇華させる。
私の馬券は紙屑になった。
言うまでもない、悪魔との契約でハッピーエンドなど訪れるわけがない。
読者のみ皆様に伝えておきたい。
悪魔の声が聞こえたならば、馬券の購入を思いとどまれたし。間違いなくはずれるのだから。なぜなら悪魔の声なのだから。
契約の代償だけ背負わされて、結果は伴わないのです。
一つ救われたことは、当団員の同じ背丈の男も馬券をはずしていたことだろうか。
王様企画
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